「耐震・制震・免震」でどう変わる?不動産会社代表が語るマンションの地震対策ポイント

はじめに:日本のマンションと地震対策

日本は世界屈指の地震大国であり、どこでも大地震が起こり得るリスクがあります。高層・低層を問わず、堅牢そうに見えるマンションであっても、地震に対する設計・施工が万全でなければ安心して暮らせません。では、その具体的な基準や仕組みはどのようになっているのでしょうか? また、よく耳にする「耐震」「制震(制振)」「免震」はどう違い、マンション選びにどう影響するのでしょうか?

この記事では、地震対策を中心にマンションの安全性を考える際に押さえておきたいポイントを解説します。中古・新築いずれのマンションを探している方も、「自分の住まいがどんな構造でどれほどの地震対策が取られているか」を把握し、納得して暮らせるよう一緒に確認していきましょう。


第1章:日本の耐震基準の変遷と「品確法」の整備

1-1. 耐震基準とは?

マンションを含む建物を設計する際、日本では「建築基準法」によって定められた耐震基準に則る必要があります。耐震基準は、大地震によって建物が倒壊し、人命が損なわれるのを防ぐための最低ラインを示すものです。コストとの兼ね合いもあり、現実的な設計を行う上で目標とする「地震に耐え得る」レベルを定義しています。

一度基準が定められると、そのまま変わらないわけではなく、大きな地震が起きて建物に深刻な被害が出た場合には見直され、都度改正を重ねてきました。そのため「築年数が古い建物ほど耐震性能が低い可能性がある」という一般論が成り立つのです。

1-2. 1970年代までの旧耐震基準

1978年に起きた宮城県沖地震までは、いわゆる「旧耐震基準」が主流でした。旧耐震基準下の考え方では「震度5程度の地震で崩壊しない」ことが目標とされ、震度5を超える大地震については明確な規定がありませんでした。

当然ながら、震度6強や7クラスの地震が想定外だったため、当時の建物は大きな揺れに対して崩壊リスクが高かったとされています。実際、旧耐震に準拠したまま築年数が進んだマンションでは、補強工事が行われていない場合にリスクが残る可能性があります。

1-3. 1981年の新耐震基準

1978年の宮城県沖地震で多数の被害が出たことを受け、1981年6月に耐震基準は大幅に強化され、これが通称「新耐震基準」と呼ばれるものです。新耐震では主に以下の点が強化されました:

  • 震度5程度ではほとんど損傷しない
  • 震度6強~7クラスの大地震でも、倒壊・崩壊を回避できるレベル

鉄筋コンクリート造(RC造)の壁量増加や、構造設計上の安全率を高めるなど、具体的な仕様が見直されました。1995年の阪神・淡路大震災で多くの建物が倒壊しましたが、新耐震で設計された物件の大半は倒壊を免れたことが知られています。

1-4. 竣工年と建築確認申請

「1981年築なら新耐震?」と考えるのは早計です。耐震基準が適用されるのは「建築確認申請」を提出した時期が1981年6月以降であることが条件で、実際に竣工するのはさらに1~2年先になります。つまり、1983年頃に竣工したマンションであれば、新耐震基準をほぼ満たしている可能性が高いといえます。

マンションの管理事務所などには建築確認の書類(副本や確認済証など)が保管されているので、不明な場合は申し出て確認しましょう。古いマンションでも耐震補強工事を実施しているケースもあります。定期調査報告書や耐震診断の資料を確認し、補強内容を把握できるかどうかもポイントです。

1-5. 2000年の「品確法」と2006年の建築基準法改正

耐震基準の改訂に加え、2000年には「住宅品質確保促進法(品確法)」が制定されました。新築住宅の構造躯体部分に10年間の瑕疵担保責任を課す制度で、建売やマンションの供給者が一定の責任を負うことが義務付けられたのです。

さらに2006年には耐震偽装事件を受け、建築確認と検査の厳格化や、3階建て以上の共同住宅への中間検査の義務化が行われました。これらの流れにより、マンションの耐震性に関する信頼性を高める取り組みが進められています。


第2章:耐震・制震・免震の違いを理解する

2-1. 基本の「耐震構造」

現在の建物は、まず「耐震」という設計思想をベースとしています。これは、柱や梁などの構造体を頑丈にして、地震による大きな水平力(揺れ)を受け止め、何とか倒壊しないよう粘り強く耐えるという考え方です。必要に応じて「一部が壊れながら」地震エネルギーを吸収し、建物全体が崩壊するのを防ぐ設計をとっています。

2-2. 「制震(制振)構造」のダンパー効果

「制震」(あるいは制振と書かれることも)とは、建物にダンパーなどの装置を組み込んで地震のエネルギーを吸収し、揺れを減衰させる仕組みです。大きな揺れだけでなく、タワーマンション特有の強風による揺れも抑制できるため、高層マンションに採用されるケースが増えています。

制震装置の特徴:

  1. 建物の変形量を抑制:揺れ自体がある程度小さくなる
  2. 揺れのおさまりを早める:余分な振動を長引かせない
  3. ダンパーの種類:粘性ダンパー、鋼材ダンパー、オイルダンパーなど多彩

建物が大きく変形・損傷する前に、制震装置が揺れを受け止めてくれるため、地震の後も比較的早く機能回復しやすくなるメリットがあります。

2-3. 「免震構造」で揺れを受け流す

制震とは異なり、免震は「そもそも地面と建物を直結しないことで揺れを建物に伝えにくくする」考え方です。具体的には、建物基礎と地盤の間に積層ゴムなどの免震装置を入れ、水平方向に揺れる空間を作り出します。大地震が起きても建物側には大きな揺れが伝わりにくく、被害が少なくて済むケースが多いです。

免震構造の利点:

  1. 大規模地震でも柱や梁の損傷が少ない
  2. 家具・家電の転倒リスクが低減
  3. 高層階でも激しい揺れになりにくい

その反面、建設コストがかさみやすいことや、メンテナンス・点検に手間がかかるといったデメリットもありました。ですが、近年は免震マンションが増加しており、購入を検討する際の「防災意識が高い人にとって魅力的」という側面が大きくなっています。

図:耐震・制振・免震の違い


第3章:マンション購入時に見るべき地震対策ポイント

3-1. 新耐震か、旧耐震か

先述の通り、築年数の目安として1981年6月以降の「新耐震」が一つの基準となります。ただし、1981~1983年頃に竣工された物件は微妙な時期にあたり、必ずしも新耐震とは限りません。管理事務所で建築確認の資料をチェックし、本当に新耐震かどうか確認するのが安全策です。

また旧耐震マンションだからといって必ずしも危険というわけではなく、耐震補強工事の有無や、立地条件(地盤・液状化リスクなど)、建物形状(L字やコ字の場合はエキスパンション・ジョイントの設置状況)を総合的に判断する必要があります。

3-2. ピロティ形式の有無と補強状況

阪神・淡路大震災では、新耐震基準の建物でも1階がピロティ(壁が少なく柱だけで開放された空間)になっている場合に被害が集中するケースがありました。柱・梁への負荷が大きくなるからです。1995年以降、ピロティ部分を強化する指針が示され、現在はしっかり補強しているマンションも多いですが、購入前に「どんな構造になっているか」「補強があるか」をチェックしましょう。

3-3. 変則的形状・構造切り替え

旧耐震マンションや大規模マンションの場合、建物全体がL字やコ字に屈曲していたり、高層部と低層部で構造が変わる(下層部SRC造、上層部RC造)ケースがあります。エキスパンション・ジョイントを設け、揺れを分散させる設計がされているなら一応の対策と言えますが、それが無ければ大地震時に構造変化点に大きな力が集中し、破損リスクが増します。こうした構造上の注意点は中古マンションではしばしば見落とされるため、プロの目で確認することを推奨します。

3-4. 耐震等級の評価

2000年の品確法で定められた「耐震等級」は、建物の倒壊・損傷しにくさを3段階で示した指標です。等級1が新耐震基準並み、等級2は1.25倍、等級3は1.5倍の地震力にも耐えられるレベルとされています。マンションではコストや設計の関係で等級2以上を取得している例は少数ですが、もし耐震等級2や3を取得したマンションであれば、さらに安心材料になるでしょう。


第4章:地震に強いマンションを選ぶ際の着眼点

4-1. 立地と地盤の重要性

耐震性は建物の構造だけでなく、地盤や周辺環境とも密接に関わっています。強固な地盤であれば揺れが比較的少なく、液状化リスクも低いとされる一方、埋立地や軟弱地盤の場合は免震・制震構造であっても想定外の揺れが生じることもあります。地盤調査資料やハザードマップ、自治体の防災情報なども併せて確認しましょう。

4-2. 管理組合の意識と補修履歴

中古マンションを購入する際には、管理組合がどれほど耐震や防災に意識を向けているかが重要です。定期的に耐震診断を受けているか、必要に応じて補強工事の計画や実施をしているかなど、管理組合の議事録や長期修繕計画を確認しましょう。たとえ旧耐震基準のマンションでも、補強工事をしっかり行っている場合はリスクが軽減されます。

4-3. 制震・免震構造の導入状況

新築マンションや高級マンションでは「制震」「免震」をアピールしている例が多いですが、それらが具体的にどんな効果を持ち、メンテナンスがどうなるかもチェックが必要です。免震装置は定期的なメンテナンスでゴム部分を点検・交換する場合もあるため、長期的な費用負担(管理費・修繕積立金)に反映される可能性があります。

4-4. 万が一の地震後の生活継続

地震に耐えるだけでなく、大地震後に建物が使用不能にならず住み続けられるかという観点も重要です。免震・制震構造のマンションは損傷が少なくなる傾向があり、被災直後もライフラインを確保しやすいかもしれません。一方で、高層階の場合は停電時にエレベーターが使えなくなるデメリットなども考慮する必要があります。


終わりに:安全性とコスト、ライフスタイルのバランスを見極める

日本のマンションでは、基本的に建築基準法の耐震基準を満たしていることが前提とはいえ、地震対策には「旧耐震」「新耐震」「制震」「免震」など、さまざまな水準や方式が存在します。それらを選ぶ際に重要なのは「どのレベルまで備えたいか」という自分自身のリスク許容度やライフスタイル、そしてコストとのバランスです。

  • 旧耐震マンション:リフォームや補強によって十分な安全を確保できる場合もある。管理組合の意欲や財政状況を確認すべき。
  • 新耐震マンション:大地震時の倒壊リスクは旧耐震に比べて格段に減少。ただし物件ごとの構造や形状にも注意。
  • 制震マンション:ダンパーなどで揺れを抑制。高層マンションや風揺れ対策にも効果的。
  • 免震マンション:地盤と建物を切り離すことで、建物への衝撃を大幅に低減。コストはかかるが、大地震後の継続居住にも強み。

また、ピロティの有無、L字形状かどうか、SRC造とRC造の切り替え箇所の処理など、建物固有の構造的特徴も見逃せません。耐震性に不安のある物件でも、耐震診断や補強の実施状況が整っているかを調べることでリスクを最小限にできるケースもあります。

購入だけでなく、住んだ後のメンテナンスや管理組合の運営にも関わる部分ですから、マンション見学や不動産会社との相談、管理規約や長期修繕計画の確認をしっかり行いましょう。

不動産の視点から総括すると、地震対策は物件選びの大きな要素ですが、過度に心配しすぎる必要はありません。現行法規(新耐震)で建てられたマンションは一定の安全ラインをクリアしていますし、制震・免震などのハイレベルな技術を採用している物件も増えています。問題は、物件ごとの実際の構造・施工品質・補強や管理体制がどうかです。そこを理解し、納得できる物件を選べば、地震大国の日本でもより安全・安心なマンションライフが実現できるでしょう。

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