不動産取引の電子化は本当に大丈夫? プロが徹底解説する新時代の契約スタイルと導入ポイント

近年、あらゆる業界で電子契約の普及が加速しています。不動産の世界も例外ではありません。契約といえば「紙の書類にハンコを押す」というのが従来の常識でしたが、2022年の宅地建物取引業法改正を機に、不動産契約でも電子化が全面的に解禁されました。

今回の記事では、不動産の電子契約について、その背景から導入手順、メリット・デメリット、さらに今後の展望や具体的な注意点までを私の経験を交えながら詳しく解説していきます。これから不動産を売買・賃貸借しようと考えている方や、あるいは不動産会社として電子契約の導入を検討している方にとって、必ず役立つ情報を盛り込みました。紙の契約書との違いや、電子契約におけるトラブル回避策なども具体例を交えてお話ししますので、ぜひ最後まで目を通してみてください。


目次

第1章:不動産契約の電子化とは?

1-1. 従来の不動産契約との比較

不動産契約と聞くと、多くの方は「不動産会社に出向き、厚い契約書を読み合わせて、最後にサインや押印をする」という流れを思い浮かべるのではないでしょうか。実際、2021年以前までは宅地建物取引業法により、重要事項説明(35条書面)や売買契約書、賃貸借契約書、媒介契約書などは原則「紙」で発行し、かつ対面で説明や交付を行わなくてはなりませんでした。

しかし、2021年5月に「デジタル改革関連法案」が成立し、翌年2022年5月には宅地建物取引業法も改正されました。これによって、不動産契約の電子化(いわゆる「電子契約」)が全面解禁されたのです。押印義務は廃止され、契約書を紙で交付しなくても、電子データのやり取りによって有効な契約が可能となりました。結果、これまで必須だった対面での契約行為をオンラインで完結させられるようになり、不動産取引における時間的・地理的な制約が大幅に緩和されています。

1-2. 電子契約の基本的な仕組み

電子契約の中核を担うのは「電子署名」と呼ばれる技術です。紙の世界では、押印や自筆サインをすることで「本人の意思表示」や「書類の改ざん防止」を担保してきました。これに対して電子契約では、以下の2点を電子的な技術によって証明します。

  1. その電子文書を作成したのが誰か
  2. 電子文書が改ざんされていないこと

さらに、データがいつ・どのタイミングで存在していたかを証明する「タイムスタンプ」を付与することで、契約成立の時点を明確にし、不正やなりすましを防止します。たとえ契約締結後に誰かが文書を変更しようとしても、署名やタイムスタンプの不整合が発生し、容易に発覚する仕組みです。

1-3. 電子契約で対象となる不動産取引

改正後は以下のような契約書面が電子化の対象となりました。

  • 媒介契約時の書面
    不動産会社と売主または貸主が結ぶ「媒介契約書」。売買・賃貸借の仲介を依頼するときに交わす契約です。
  • 重要事項説明書(35条書面)
    不動産取引において、契約締結前に宅地建物取引士が買主や借主に説明する書類。取引のリスクや物件の法的規制など、消費者保護の観点から非常に重要な役割を果たします。
  • 売買契約書・賃貸借契約書(37条書面)
    売買や賃貸借を実際に結ぶ際の契約書。従来はここでも押印が必須でしたが、電子署名によるオンライン締結が可能となりました。
  • 定期借地権設定契約書
    一定期間だけ土地を借りる定期借地の契約書も電子化の対象です。

第2章:不動産電子契約が広まる背景

2-1. デジタル社会への移行

インターネットの普及や通信技術の発達により、ビジネスのオンライン化は様々な業界で進んでいます。行政手続きすらオンライン申請ができる時代に、紙のハンコ文化が根強かった不動産取引もついに変革を迎えたといえるでしょう。新型コロナウイルスの影響で、非対面・リモートワークへの需要が高まり、法改正への後押しとなった面もあります。

2-2. 業務の効率化とコスト削減

不動産契約を紙でやりとりすると、契約書の作成・印刷・製本、そして押印のための郵送などに時間や手間がかかります。特に遠隔地に住む買主や借主がいる場合は、契約締結までに数日から1週間以上のタイムラグが発生することも珍しくありませんでした。電子契約を導入すれば、これらの作業をオンラインで一気に完結できるため、契約手続きが飛躍的にスピードアップすると同時に、郵送費・印刷コストなどの経費削減にも大きく寄与します。

2-3. 印紙税の負担軽減

従来の紙の契約書には取引額に応じて収入印紙が必要で、高額取引ほど印紙税も高くなっていました。電子契約では「課税文書」を作成したとみなされないため、印紙税が一切かかりません。不動産売買では数千万円〜数億円もの契約金額が珍しくないため、印紙税が数万円、場合によっては数十万円かかることもあります。電子契約の導入で、契約当事者の費用負担が大幅に減ることは大きなメリットです。


第3章:不動産電子契約のメリット

ここからは、私自身が不動産契約をサポートする中で実感した、「電子契約ならではの利点」をまとめてご紹介します。

3-1. スピーディな成約

電子契約では、契約書面をPDFや専用システム上で作成し、双方がオンライン上で同時にチェック・署名できます。押印のための来店や郵送の手間がいらないため、遠方に住む当事者同士でも短期間で契約を締結できるのが最大の魅力です。忙しい現代人には非常に大きな利点といえます。

3-2. コスト削減(印紙税が不要)

先ほど述べた通り、電子契約であれば印紙税を支払う必要がありません。特に数千万円規模の売買契約だと、印紙代だけで何万円もかかるのが普通ですから、この削減効果は見逃せません。さらに紙代、郵送料、印刷の手間など、細かなコストもまとめて圧縮できます。

3-3. 遠隔地でも契約が可能

海外投資家や地方に住むオーナーが都心の不動産を売買・賃貸借するケースも増えていますが、電子契約ならば物理的な距離はまったく問題になりません。オンライン会議ツールと電子契約システムを組み合わせれば、時差調整さえできれば24時間いつでも契約書の確認・署名ができます。

3-4. ペーパーレス化による管理が容易

契約書や重要事項説明書など、従来は紙で大量に保管する必要がありましたが、電子契約ならクラウド上でデータ保存が可能です。管理スペースが不要になり、書類紛失や破損のリスクも大幅に低減。電子契約システムには検索機能が備わっていることも多く、必要な書類を瞬時に見つけられます。

3-5. 法的に安全な取引

「電子だと不正が簡単なのでは?」という不安もあるかもしれません。しかし実際は、電子署名やタイムスタンプが正しく運用されていれば改ざんは困難です。また、契約のやり取り全体をシステムがログとして記録するため、「いつ誰がどの書類に署名したのか」をデジタル証拠として明確に示せます。紙の契約よりも透明性が高まるという見方もあるでしょう。


第4章:不動産電子契約のデメリットと注意点

メリットが多い電子契約ですが、当然のことながらデメリットや注意点も存在します。ここでは、それらのポイントを挙げていきます。

4-1. システム障害やサイバー攻撃への懸念

電子契約はインターネットを介して行うため、停電やサーバーダウン、サイバー攻撃などによってシステムが使えなくなるリスクがあります。大切な契約データを保管する以上、高セキュリティのクラウド環境や定期的なバックアップの体制が必須といえるでしょう。

4-2. 書面契約との比較と検討

対面であれば、契約書の読み合わせの流れで細かな質問をしやすかったり、リアルタイムに書き込みができたりといったアナログな利点もあります。電子契約はスピーディに進みがちなぶん、確認不足のまま「とりあえず押しておこう」という当事者が出てくるとトラブルの種になるかもしれません。焦らずしっかり契約書面を読み込んで、疑問はその場で解消する姿勢が大切です。

4-3. すべての不動産会社が対応しているわけではない

法的には電子契約が解禁されましたが、現状ではまだ導入していない不動産会社も多いのが実情です。社内ルールやシステム導入コストの関係で、紙の契約にこだわる企業もあります。電子契約を望む方は、対応できる会社かどうか事前に確認すると良いでしょう。

4-4. 当事者のITリテラシー差

電子契約はPCやスマートフォン、クラウドサービスを利用するため、ITリテラシーが低い方にはハードルが高い場合があります。利用者全員がスムーズに操作できるように、不動産会社はマニュアル準備やサポート体制の強化が欠かせません。特に高齢のオーナーや海外投資家の場合、言語やIT環境の問題で追加サポートが必要になることもあります。


第5章:不動産電子契約の実施フロー

実際に電子契約を行う場合、どのような手順になるのかをざっくりまとめてみましょう。ここでは、一般的な賃貸借契約の流れを例にご説明します。

5-1. ネットワーク環境の整備

まず、電子契約に必要な機器やインターネット環境を確認します。PC・スマホ・タブレットなど、画面が十分に見やすく、カメラやマイクが使える状態が望ましいです。オンラインで重要事項説明(IT重説)を行うためには、安定した通信環境が不可欠です。

5-2. 重要事項説明(IT重説)の実施

従来は対面で行われていた重要事項説明を、オンラインのビデオ通話ツールなどで行う手法を「IT重説」といいます。事前に重要事項説明書(35条書面)のPDFを送ってもらい、契約当日は画面共有しながら説明を受ける形が一般的です。契約者が承諾し、システム環境が整っていれば、IT重説は法律上有効な手段として認められています。

5-3. 電子契約書の作成とチェック

重要事項説明後、合意に問題なければいよいよ電子契約書を作成します。不動産会社が専用システムで売買契約書または賃貸借契約書(37条書面)を作成し、クラウド上にアップロード。契約者はログインして書類を確認し、内容に合意したら「電子署名」を行います。タイムスタンプが自動的に付与され、契約日時が正確に記録される仕組みです。

5-4. 契約締結と書類の保管

双方が電子署名を完了すると、法的に契約が成立したことになります。契約書のデータはシステム上で保管され、各自がダウンロードも可能。紙での保管が不要となるため、契約書紛失や保管スペースの問題から解放されます。必要に応じて印刷することも可能ですが、印紙税は課されません。


第6章:今後の展望と導入の広がり

6-1. IT重説の普及状況

現時点では、賃貸領域ではすでにIT重説が13%ほど導入され、売買領域では5%程度とのデータもあります。まだまだ少数派ですが、オンラインで完結させたいというニーズは確実に伸びています。特に若年層やITリテラシーが高い投資家層からは「対面に行く必要がないのは助かる」という声も多く、社会情勢やデジタル庁の方針も相まって今後は一気に普及が進む可能性があります。

6-2. ペーパーレス化やCO2削減への貢献

不動産契約の電子化は、ペーパーレスによる環境負荷低減にも寄与します。紙やインク、郵送資材の節約はもちろん、契約のための移動を削減すれば交通費やCO2排出量も抑えられます。SDGs(持続可能な開発目標)が注目される昨今、企業の社会的責任(CSR)としても電子契約導入を進める企業が増えるでしょう。

6-3. さらなる法制度の整備

現状では、電子契約を行うにあたって特定のシステムやサービスを利用するケースが多いですが、今後は官民一体で電子契約の標準化が進む可能性があります。例えば、国が定める電子契約の共通フォーマットが整備されれば、業界全体がよりスムーズに電子化を受け入れられるはずです。


第7章:具体的な電子契約サービス例

不動産の電子契約に特化したシステムは複数存在します。ここでは代表的な例をいくつかご紹介します。いずれも「電子署名」や「タイムスタンプ」の仕組みを備えており、改ざん防止や情報漏洩リスクを最小化する対策が講じられています。

  1. 電子契約くん(イタンジ株式会社)
    賃貸契約に特化した機能が充実。クラウド上で契約書を作成・管理し、電子署名とタイムスタンプを組み合わせて安全性を確保。
  2. いえらぶサイン(いえらぶGROUP)
    賃貸借契約の新規締結・更新・解約業務まで一元管理が可能。シンプルな操作画面で、ITが苦手な方でも使いやすいと評判。
  3. 電子印鑑GMOサイン(GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社)
    幅広い業種・業界での利用実績があり、不動産取引向けのプランや機能が用意されている。法的有効性を担保するためのセキュリティレベルが高い。
  4. IMAosSB(C&S株式会社)
    不動産賃貸業の電子契約に特化。契約書以外に請求書や領収書の電子化にも対応しており、不動産経営全般のペーパーレスを推進できる。

電子契約サービスを選ぶ際には「導入コスト」「セキュリティ」「ユーザー数(同時利用者数など)」「カスタマーサポート体制」をよく比較検討することが大切です。


第8章:電子契約導入を検討する不動産会社へのアドバイス

私がこれまで不動産取引をサポートしてきたなかで、「電子契約を導入したいけれど、どこから手を付けていいのかわからない」という声を多く聞きました。以下に、導入時のポイントを挙げますので、業務効率化を目指す企業の方はぜひ参考にしてみてください。

  1. 社内ルールの策定
    電子契約と紙契約が混在する期間が当面は続くことになるでしょう。どの契約を電子化し、どの場面で紙を使うのか、社内規定を明確化することが重要です。
  2. ITリテラシー研修
    営業担当や事務担当が電子署名やIT重説の手順を理解しないまま運用すると、かえってトラブルが増える可能性があります。ツールの操作方法や法的根拠を含め、段階的な研修を行いましょう。
  3. 顧客への丁寧な説明
    特に高齢者やITに不慣れな方には、電子契約のメリットや安全性をしっかり説明する必要があります。不安感を取り除き、サポート体制を示すことで、スムーズにオンライン契約へ移行できます。
  4. セキュリティ対策とバックアップ
    万が一システム障害が起きた際の代替策や、データ消失を防ぐバックアップ体制を整えておくことが不可欠です。
  5. 実際の利用手数料と費用対効果の把握
    電子契約サービスには月額利用料や初期導入費用が発生するケースがあります。印紙税の削減や業務効率化との兼ね合いを見ながら、導入の費用対効果をシミュレーションしてみましょう。

第9章:私が実際に携わった電子契約事例と学び

9-1. 地方在住オーナーとの賃貸借契約

ある地方に住むオーナー様が、都内のマンションを賃貸に出す際に電子契約を導入しました。紙の契約書で郵送を往復していたら数日はかかるところ、電子署名でスピーディに締結。結果的に賃借人の要望に早く応えられたため、空室期間を最小化できました。

9-2. 海外投資家との売買契約

海外の投資家が日本の物件を購入する案件で、コロナ禍もあり来日が困難な状況でした。そこで電子契約を提案し、オンライン会議システムでIT重説を行った後、売買契約をPDF化してクラウドにアップロード。タイムスタンプと電子署名を使って契約を無事締結しました。このケースでは、印紙税の大幅削減も投資家にとって大きな魅力でした。

9-3. 注意すべきだったポイント

どの事例でも共通して言えるのは、「契約内容を理解しないまま進めないこと」が最も大切だということです。便利だからこそ、一気にクリックしてしまいがちですが、高額な不動産契約ほど慎重な確認が必要です。電子契約が初めての方には操作方法や法律的根拠を丁寧に説明し、不安要素を排除してからサインしてもらう体制づくりが欠かせないと痛感しました。


第10章:まとめ — 新時代の不動産契約を賢く活用しよう

以上、不動産電子契約の基礎知識から実務での活用、メリット・デメリット、そして今後の展望について詳しくお伝えしました。最後に、この記事のポイントを整理しておきましょう。

  1. 電子契約は法的に有効
    2022年の宅地建物取引業法改正で不動産取引の電子契約が全面解禁となり、押印義務も廃止されました。IT重説のオンライン実施と併せて、フルリモート契約が可能になっています。
  2. メリットは時間短縮とコスト削減
    契約手続きがスピーディになり、印紙税や郵送費、紙の保管スペースが不要に。遠隔地や海外からの契約でも距離の問題がなくなります。
  3. デメリットとしてセキュリティや操作面の課題も
    サイバー攻撃対策やシステム障害対策が必須ですし、ITに不慣れな方へのケアも必要。電子契約に慣れていない企業や顧客がいるうちは、紙と併用するハイブリッドな手法がしばらく続くでしょう。
  4. システム選びは慎重に
    「電子契約くん」「いえらぶサイン」「電子印鑑GMOサイン」など複数のサービスが存在します。導入コストやセキュリティレベル、サポート体制を比較し、自社や契約当事者に合ったシステムを選びましょう。
  5. 契約内容の理解が何より重要
    電子契約はクリック一つで進むぶん、じっくり契約条項を読み込む機会が減りがちです。トラブルを避けるために、不動産会社は事前説明をしっかり行い、契約者自身も疑問点を積極的にクリアにしておきましょう。

今後はさらに多くの不動産会社が電子契約を導入し、数年後には「紙の契約書にハンコを押す」ことが少数派になっているかもしれません。不動産という大きな資産を扱うからこそ、安全性と効率を両立した契約手続きが強く望まれます。皆さんも電子契約を上手に活用し、より快適でスムーズな不動産取引を実現してみてはいかがでしょうか。

これからの不動産業界はどんどんデジタル化が進み、より透明性の高い取引が増えていくと確信しています。新たなテクノロジーは、使い方を間違えなければ私たちの生活を大いに便利にしてくれるはずです。高額な資産を扱うからこそ、正しい知識と慎重な姿勢を持ちつつ、新しい時代の契約手法を取り入れていきたいものですね。

 

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